PON という犬に興味がありますか?
〜 パートナー犬を選ぶに当たっての情報 〜

お一人お一人にお答えする時間が膨大になってきているので、取り急ぎJAPON(JPONC)に多いお問い合わせに関してまとめてみました。

PONという犬の本質

もこもこふわふわの外見は一見可愛らしく、どでかいぬいぐるみのように見えます。
常に飼い主を見ていて、本当に私の事が好きなんだなと思わせるような笑顔を見せる(ウシシと笑う感じだったりもしますが)犬です。

しかし、PONという犬は独特な犬で、初心者向きではありません。
もともと頑固で自分の考えを貫き抜き通すような意思の強さを持ち、戦渦をかいくぐって来た犬です。
根っからのプロレタリアートとも言えるその図太さは、改良されていない犬の原種に近い野性味も持ち合わせているということなのです。
擬人化して育てる傾向のある日本人に甘やかされて育つPONほど問題行動は多くなります。

そういった意味で若いうちからの服従訓練(オベイディエンス)などは欠かせず、手がかかる犬です。
精神的・肉体的・経済的に余裕が無い場合には飼育を諦めるに越したことはありません。

情が深く、見返りを求める傾向のある犬なので、常に飼い主と行動を共にしたがる傾向があります。
一人っきりの長い留守番や運動不足は即フラストレーションが溜まり、問題行動に結びつきますので要注意です。

また、3歳児以上の頭脳を持ち、精神的にもタフでずば抜けた記憶力を持つ犬と言われています。
暇を持て余すような育て方をすると、好き勝手な行動を取り始めて大変なことになっていきます。

「日本人は礼儀正しくとても優しい人々だわ。だけど、自分が上に立ってリーダーになれるようなマッチョな飼い主でなければキャバリアをお飼いなさいな!」
海外のブリーダーは日本人の甘さを優しさと例えてくれていますが、ポンを飼う上では強い飼い主になることが求められます。

「無駄吠え」
「自由気ままな問題行動」
「攻撃性」
といった日本で顕著な問題となっているPONの行動は、日本人のリーダー性に乏しい国民性にも問題があるという判断が下されています。

もちろん繁殖の段階で「神経質で興奮性の高いシープドッグ気質」の淘汰と改良がされてこなかったという問題もあります。
20年間何もやってこなかった日本のPONと、健康面・精神面できちんとした淘汰・改良を行ってきた海外のPONとではかなりの差があるように思われますし、実際違います。


■PONを飼うということ


○飼育環境の確保

PONは愛玩犬ではなく、牧羊という仕事を持つ使役犬です。
見知らぬ人間が羊達に近づくと吠えて騒ぎ立てるプログラミングがされた犬(ウォッチドッグ)だと思ってください。
日本では広大な敷地が広がる自然がすぐそこにある海外諸国と違い、都市部での飼育がメインになります。
一日に一回以上の充分な運動を確保できる環境が近くにあるでしょうか。
運動不足はPONのフラストレーションを溜め、大きな問題に発展していきます。

○飼育経費の算出

トリミング アンダーコート・オーバーコートが密集した犬ですので、日々のケアが大切になってきます。
こまめに自分でやることの出来る方でしたら問題はありませんが、専門店に任せる場合シャンプーで8000円前後・カットで10000円前後かかります。
(月二回のシャンプーが平均的な回数)

医療 中型犬は小型犬に比べ医療費は急激に上がります。医薬品は基本体重で計算されるので、大きい犬ほど経費はかかってきます。
混合ワクチン・狂犬病ワクチン・フィラリア予防薬最低6ヶ月分・ノミダニ忌避薬は年間で必要となる最低ラインの医療で、地域差はあったとしても5万はかかります。
事故・持病・老齢化・健康診断・避妊去勢等の手術などを考えると、生涯で月平均数万単位の医療費が必要になると考えてください。

医療保険 入っておくと安心ですが、月額5000円前後です。

食事 安いドッグフードを与えて最終的に医療費がかさむか、高品質なフードを与えて健康を維持するかという問題になります。
ただ、PONは基礎代謝の悪い典型的なシープドッグなので、低タンパク・低脂肪の食事をこころがけないとすぐに太ってしまいます。
いいフードということだけで高カロリー・高タンパクフードを薦める業者もいますが、運動量・個体差・年齢で多少の変動は考えたとしても、PON 本来の体質に沿った低カロリー・低タンパクを心がけるのがいいようです。

訓練 グループトレーニングへの参加や訓練士による個別トレーニング等は1回5000円前後〜が相場です。

○子犬購入に関しての注意点

希少犬種と言われる犬ほど店頭販売での購入は避けてください。
もともと世界的に絶対数の少ない犬種が日本に入って来て、少ない頭数で繁殖されていくわけですから、悪い遺伝子は凝縮しやすくなります。
珍種・希少種はこだわって繁殖をしているブリーダーから購入することが大切です。
「物」ではなく「命」ですから、今何故この犬種が欲しいのかをよく話し合い、犬との必然的な出会いを求めることが大切だと思います。

全犬種ブリーダーに言える事ですが、性格や疾患などお構い無しに交配を続け、パピーミル(子犬工場)として稼動させ続ければ不幸な犬と飼い主を増やすだけです。
どんな犬でもリスクがあるようにそういった犬でもいいのだと簡単に考え、飼育を望む購入者が日本人に多いのも事実です。
日本のパピーミル体質を支えているのは意識レベルの低い購入希望者だと言っても過言ではありません。
このように飼育を望む購入者がパピーミルを助長させる傾向が見られるため、海外のブリーダーから新たな血を譲ってもらえないという悪循環も生まれています。

@安定した気性
A健康な肉体
B容姿(最後にあえていうならば程度 ショードッグをお求めの場合は別)

を考慮して子犬を選別するためにも、店頭での購入はお薦めしたくありません。

特に中型犬でも、大型犬サイズ扱いになりうるPONのような犬は医療費がかさみます。
健康なPONを選んでください。

○ブリーダーの選択

子犬の問い合わせに関しての返答は差し控えさせていただいております。
返信は致しませんので、ご了承ください。


■PONを選ぶ

○母犬・父犬の情報開示を受けてください。

親犬を見せてもらいましょう。自信のあるブリーダーさんは喜んで見せてくれます。

性質 攻撃的でなく穏やかである 腺病質でない(神経質でない)
アレルギー等の皮膚疾患 が無い

この二点は直接見ることでわかります。

日本のPONに関しては以下の三点が遺伝的に多いので、親犬のこの部分を確認することが大切です。

股関節・膝蓋骨・肘関節
OFA/FCI(European)/BVA(UK/Australia)/SV(Germany)
いずれかの検査済みで、問題が無い

PRA 進行性網膜萎縮 交配時点の発症・進行がない

心臓 不整脈・疾患がない

また、次にあげる検査は必須項目です。甲状腺の値であるTgAAが陽性の場合、海外ではその犬での繁殖は禁止されます。
絶対的な遺伝性甲状腺機能低下症に結びつくからです。PONの甲状腺機能低下症は海外では長らく大きな問題となっていました。
絶対数が少ないのに、アイリッシュセッターに続いて二番目の多さを指摘されていたくらいの発症率だったのです。

TgAA サイログロブリン自己抗体が陰性である

希少犬種のブリーダーはこれ等の点を全てクリアにしているはずです。
心臓疾患・股関節・TgAA・PRA・アレルギーは確実に受け継がれていく遺伝病ですので、明確に否定する証明書の提示をオーナー希望者は要求しましょう。
高いお金を支払って最高のパートーナーを選ぶにあたり、それは当然の要求です。
検査をせずにブリーディングされた子犬には各遺伝的疾患が出てくる可能性が高いと判断された方がいいかもしれません。

※参考までに
〜 日本のPONに多い健康問題 〜

免疫異常疾患(アレルギー等の皮膚疾患・甲状腺機能低下症)

JKC犬種別登録数
ポーリッシュ・ローランド・シープドッグ
1999年 213頭
2000年 110頭
2001年 215頭
2002年 133頭
2003年 73頭
2004年 114頭
2005年 85頭
2006年 64頭
2007年 55頭
2008年 37頭
2009年 74頭
※2009年度は〜8月までの記録になっているので、実質はもっと多いと思います。                

これはジャパンケンネルクラブで記録されている国内で登録されたPONの頭数の推移記録です。(1999年以前の記録に関してはデータベースの問題で公開はされていません。)

一次PONブームの1999年前後にはアレルギーが多くのPONに遺伝し、飼い主に精神的・経済的に大きな負担を強いることになりました。
この頃はまだ日本も経済的余裕があった時代で、大型犬のゴールデンやラブラドールが人気上位犬種として大量の繁殖が行われていた時期です。
ゴールデンの股関節形成不全やラブラドールのアレルギー等がこの乱繁殖で顕著になったこの頃に生を受けたPON(現時点で10歳前後のPON)にアレルギーが非常に多いのは事実です。

アレルギーは確実に遺伝しますので、その時の犬達で繁殖されたPONには現在も確実に免疫異常として受け継がれています。

海外ではこのアレルギーの遺伝を確実に淘汰する為、どんなショータイトルを持つ犬であろうとも発症があれば繁殖においての排除を徹底的に行っています。

悲しいことにアレルギーは痒みを伴います。痛みより痒みの方が我慢できないのは人間と同じで、犬も掻き毟るしかありません。必然的に対症療法としてステロイドの投与が成されますが、長期に亘る投与は内臓へかなりの負担をかけます。
ところが不思議なことに、JAPON(JPONC)に登録しているしていないに関わらず周囲を見渡してみると、ステロイドを大量に使ってきたPON達が短命でもないことが判明しています。

アレルギーは掻き毟りや膿皮症という症状で一見してすぐにわかるという利点があります。
その分早めの対処ができ、継続的かつ定期的な内臓病変のチェックを飼い主に促しやすい為長生きできているのかもしれません。

医学の進歩は獣医学も同様で、毎年のように新たな治療法が開発されています。
アレルギーに関しては
■インターフェロン
■減感作
■アトピカ
等の他に
■ホメオパシー
というようなものもありますが、ここでは治療法の概要は割愛させていただきます。
(日本のPONはほとんど親族といってもいいですから、効果の有無はある程度同じ結果で出ています。)

しかし、アレルギーは完治が見込めませんので覚悟して下さい。

甲状腺ホルモンは体を構成する骨、筋肉、内臓、皮膚、その他全身の新陳代謝・働きを促進、調整する大変重要な役割を担っています。
甲状腺機能低下症は、この甲状腺ホルモンの分泌量が減少することで起こる病気です。
発症すると元気がなくなる、体重が増える(肥満傾向)、毛が抜ける、皮膚が黒ずむなどの様々な症状が起こります。教科書には載っていませんが、鼻梁の幅が広く、黒くてかてかしている場合は疑っていいと思います。

また、中枢神経や抹消神経等の神経系にも影響を与えることがわかってきました。
精神的な不安定さから来る「理由なき攻撃性」という行動変化の報告が海外では沢山あるので、日本のPONの神経質な攻撃性もあながち関係ないことではないことかもしれません。

更に、日本のPONには通常なかなか断裂には至らない前十字靭帯断裂が多々報告されています。
断裂を起こした靭帯の弱い個体には甲状腺機能低下症の割合が多いというデータもあり、全てにリンクする深刻な病態なのです。


ただこの病気はチラージン等のホルモン薬投与でコントロールできるので、血液検査(TgAA検査とは別)をすれば簡単にわかるようになってきた今、早めに飼い主が気づいてあげることが大事になってきています。

海外のブリーダーのそれぞれのDAM(台雌)STUD(種雄)の紹介項目の中にTgAA Negativeと明記してあるのはそれだけ重要項目だと認識しているからなのです。
【PONを選ぶ】という項目で記してあるように、TgAA(サイログロブリン自己抗体)がポジティブ(陽性)である犬は繁殖からはずさなくてはいけません。遺伝する負の要因が判明した今、それはブリーディングに関わる人間の常識となっています。


股関節・膝蓋骨・肘関節・靭帯断裂

PONにおいては前十字靭帯断裂が多いと記しましたが、前十字靭帯は簡単に言うと膝関節を支える靭帯の一部です。この断裂はこれまで過度な運動負荷によって生じると考えられてきました。
しかし近年免疫介在性(上記参考)や関節炎、滑膜炎(リウマチの基)等が影響していると考えられるようになってきています。

足を上げて変な歩き方をしたりしている場合には早急に病院に行ってください。
片側の足だけでなく、かばうことで後日反対側も断裂する場合が多いようですので、運動規制など長期のケアが必要になってきます。

また、膝蓋骨とは膝のお皿部分です。この部分が色んな方向に脱臼するのが膝蓋骨脱臼と言われるものなのですが、程度はまちまちでほとんどが遺伝とされています。グレードは1〜4と別れており、犬自身、伸びをすることによって元の位置に戻している場合もあります。かわいい動作をする奴だと勘違いせず、引きずるような歩き方をしていないかも等の歩様チェックも必要です。

次に、大型犬の間でも大きな問題となっている股関節形成不全の話です。
これは海外でも頭を抱える所なのですが、繁殖段階での選別・淘汰を繰り返しても30%の割合でどうしてもコントロールできないという問題を抱えています。

全ての繁殖犬に厳しい検査をし、検査機関によって数字ポイントやABC、エクセレント・グッド・フェアといったランク付けをします。
一番厳しい基準はヨーロッパ方式と言われ、Cランクの犬は必ずAランク以上の犬との交配しか考えません。また、その時点でそのCランクの犬の先祖代々(ビハインド)を調べ、ラインに股関節形成不全が出ていないかの確認を行うという細かい作業をしてからの繁殖となります。
もちろんこれはそれぞれの犬種の向上を目指すブリーダー・飼い主達の情報提供データベースの存在があるからできることです。
現在OFA(Orthopedic Foundation for Animals)等ではオープンレジストリー制度を取っており、誰もが登録犬舎の種雄・台雌情報を確認し自分の人生のパートナーをじっくり選ぶことが出来るようになっています。
日本でも、
NPO法人日本動物遺伝病ネットワーク(JAHD)等が啓蒙活動を続けているので、ぜひ皆さんも深刻な問題としてこちらのサイトでお勉強して下さい。

繁殖犬が股関節形成不全でないという証明書が重要なのはわかっていただけたでしょうか。
医学の進歩に追随しないという難題を抱えているという意味でも、この遺伝疾患を軽く考えてはいけません。

触診・レントゲン等ですぐに判明しますので、繁殖は考えていないにしても1歳前後の段階で一度きちんとした検査を受け、問題があるようならば継続的なサプリメントの使用や筋肉による補強を行うことが大切です。
フローリング生活や、都心の急な階段の上り下り、PONの体質を考えないフードの給餌による肥満が重症化に結びつきますので、生活環境を整え体重管理をきちんと行うことが大切なのです。



PRA(Progressive Retinal Atrophy)進行性網膜委縮症

PRAは数多くの進行性網膜変性の総称で、徐々に網膜が萎縮することによって視覚が低下し、最終的には失明に至る疾患です。
どの犬種にでも発症する遺伝病の一つですが、1歳前後で発症する早期型と3〜4歳辺りから始まり進行していく遅発型があり、両眼が侵されて痛みも伴います。PONのPRAはある程度の年齢になってから発症する遅発型と言われています。

暗がりであまり目が見えていないような初期症状から始まり、次第に明るい場所でも視覚的問題が生じてきます。
治療法はありません。


発症犬の両親や兄弟姉妹・子孫は少なくともキャリアなので、決して交配に使ってはいけません。

PRA遺伝組み合わせ 子孫発症率 子孫キャリア率 子孫正常率
両親とも発症 100%
片親が発症
片親がキャリア
50% 50%
片親が発症
片親が正常
100%
片親がキャリア
片親が正常
50% 50%
両親ともキャリア 25% 50% 25%
両親とも正常 100%

遺伝子の解明で、近年一部の犬種ではクリア(PRA発症遺伝子を持たない)・キャリア(PRA発症遺伝子を持つ)・アフェクティッド(PRAを発症する)の診断が可能となっています。
PONに関しては海外ポンクラブの共同作業で遺伝子の特定が急がれていますが、絶対数の少なさからデータ収集は困難を極めていて未だ特定できていません。(発症犬のオーナーさんにはご協力いただけると助かります。まとめてデータを送りたいと思います。)

現時点では眼底検査を受けるしかないのですが、可能なのはその時点で「正常」か「異常」かの診断だけでキャリアかどうかの診断はできません。
抗酸化剤やビタミン剤の使用で進行を遅らせる治療となりますので、早期発見の為に少なくとも年に一回は眼科検診も受け、発症があればブリーダーに即刻報告することをお薦めします。


日本のPONには循環器系の疾患が多い特徴があります。
循環器系とは心臓や血管、リンパ管、腎臓などの器官の総称ですが、ここでは腎臓と心臓を取り上げたいと思います。

老齢化で出てくる循環器系の疾患は致し方ないとしても、発症はできるだけ避けたいものです。
腎臓疾患(急性腎不全・慢性腎不全)

腎臓には、
★体の中から蛋白質を分解した老廃物を尿として排出させる。
★血液の中から老廃物を漉し取り、必要なものは身体に残す。
★排尿する濃さや量を調節することで、血管や心臓の中の血液量を調整する。
★電解質や血圧を調節するホルモンと赤血球を作るホルモンを分泌する。
という働きがあります。


腎不全は慢性と急性の2つに区分されますが、老齢化を含めた理由で数ヶ月〜数年かかって腎臓の機能が低下していくのを慢性腎不全といいます。
何かしらの原因によって、血液をろ過して尿を作るネフロンが少しずつ壊れていき、腎臓が機能をしなくなるのです。
初期ははっきりとした症状が出ないので、わかりにくいのですが、

★水を飲む量が増え、尿の量も増えた
★吐くことがある
★食欲が落ちたりムラがあって、痩せてきた
★口臭がアンモニア臭い

こんな症状が見られる場合には慢性腎不全を疑ってください。

実際には、血液検査でひっかかった時点で、腎臓の3/4以上の機能は既に低下した状態です。だめになった腎臓は再生しませんので、いかに残りの腎臓を長持ちさせるかが勝負です。その症状は徐々に進行していきますが、進行を遅らせるように治療をするしかありません。
治療は食事の改善で、老廃物の元になり、蓄積してしまう蛋白質やミネラルを制限した高カロリー、低タンパク、低ナトリウムの食事が中心になります。


★尿量が急激に減少した、もしくは出ない
★食欲不振・吐き気・嘔吐
★元気消失
という症状が出る急性腎不全は数時間から数日で急速に悪化します。見過ごすと高カリウム血症や尿毒症を引き起こし、命を落とすことになります。


腎臓の機能が駄目になると、その働きから心臓への影響は計り知れないものとなります。

ストラバイト結石症

ストラバイトは腎臓や尿管、 膀胱、尿道などに結石(結晶・砂)ができる病気です。
この結石は、リン酸アンモウニウムマグネシウムが主成分で、尿がアルカリ性に傾くことが原因で作られてしまいます。

一般的には細菌感染した膀胱炎に付随して、繁殖した菌が尿をアルカリ性にすることで結石が作られることが多いようですが、PONに関してはそれだけではないようです。

日本のPONに循環器疾患が多いことは前述しましたが、腎臓は、液体量を調節するとともに、血液が酸性に傾きすぎたり、アルカリ性に傾きすぎたりする場合、血液のバランスを保つために、尿の酸性度を変えます。
そういう作用が関係しているのかは定かでは無いのですが、何故か日本のPONの尿のPh(ペーハー)を計測すると、通常で8(アルカリ性が強い)辺りが多く、何かをきっかけにして、血尿や匂いの強いタンパク尿になったり、砂状の結晶を伴う尿になりやすいのです。道路で尿が乾いた痕を見ると、キラキラと光る結晶が残っていたり、陰部の毛に塩の結晶のようなものが付着していたりして気づくこともあるので、観察してみてください。
何度も少量の排尿を繰り返していたり、陰部を異様に気にしていたりしたら要チェックです。

海草系サプリメントや、リン成分含有率の高いフードなどを食べさせると一挙に症状が出ることから考えると、体質的にリン・カルシウム・マグネシウム等のミネラルが豊富な食材に過敏に反応することも考えられます。
また、アレルギーを持つ犬に発症が多いことからも、関連があるといわれています。

尿検査で結晶の有無やPhの値はすぐにわかるので、悪化しないうちに病院で確認することが大事です。

心臓疾患

先天性心疾患の遺伝子は必ず遺伝するので、繁殖は禁忌となります。
その犬には症状が無くとも、遺伝子は確実に運ばれて子孫に受け継がれ、どこかの時点で表に出てきます。だからこそ、判明した時点での迅速な対応が重要となるのです。

10年ほど前のスウェーデンでの話です。
立て続けに2頭の雌に心疾患の子犬を産ませてしまった種雄を所有していたブリーダーが、国をまたいでその犬の祖先・兄弟姉妹を辿り、そのラインでブリーディングを行っている全犬舎からそのラインを淘汰させたということがありました。(殺したのではなく、繁殖を止めさせたという意味です。)
また、オランダには、種雄のTgAA等の遺伝子検査結果以外にも、心臓検査結果をドップラー画像(エコー)つきで公表しているPON専門犬舎まであります。


残念なことに20数年前に日本にやって来たPONの中に、中隔欠損等の先天性心疾患遺伝子を持つ雌犬がいました。
心あるブリーダーの配慮でその犬でのブリーディングは中止されていましたが、その後、場所を移してブリーディングは続いてしまっていたようです。

JKCが公表している犬種別のスタッドブック(出産データ)は1999年以降の物なので、皆さんのご提供のもと、かき集めた何十枚もの血統書で辿ることができたのは大きな成果でした。ご協力に心より感謝いたします。ありがとうございました。

このブリーディングラインは1999年の記録にも登場。2000年前後に使われた種雄により、心疾患のPONを増やしました。若年での突然死を含めた心疾患、悪性リンパ腫等の症状が頻発したはずです。
2004年頃よりは数頭の台雌を介し、この遺伝子は爆発的な頭数の心疾患PONを生み出していくことになりました。
その後アレルギー等の免疫疾患や気性の難しさ、中途半端な大きさなどの問題でなかなか日本に定着しなかったPONのブリーディングを行う犬舎は減少。登録数は減っていきましたが、その分、先天性心疾患遺伝子保有PONの出生率は2004年以降、優に60%を超えていきます。

先天性心疾患の犬でのブリーディングでは子犬が育たない(死んでしまう)という特徴もあるので、登録数の激減はそれを証明してもいるわけです。
何となく気づいてはいたけど、核心に踏み込めなかったオーナーさん方も多いと思います。
長い間封印されてきたショッキングな話なので、皆さんに真実を伝える機会を逃してきてしまいました。

遺伝子を保有しているからと言って、全頭に疾患がある(出る)というものでもありません。全く問題のない子も多数いると思いますが、疾患のリスクは非常に高いと思ってください。
先天性の心奇形の場合、その程度や奇形の種類にもよりますが、他の同胎の犬よりも体格が小さかったり、ある程度大きくなっても、突然死を起こしたりする事もあります。

症例は軽いものから重いものまであまりにも多岐に亘るので、ここでは割愛しますが、 日本で一番PONの臨床を数える動物病院では、PONイコール心臓が悪いという見解で診察をしています。
「虚血性心疾患が多く、腎臓を含めた循環器系が弱い」ということでした。
如何に多くのPONが問題を抱えているかということです。

なぜ今ここで公表するかというと、目に見えるアレルギーなどの疾患と違い、検査をしないと判明しないことも多い疾患だからです。
無症状であるにもかかわらず聴診で心雑音があったり、レントゲンでは心臓が肥大していたり、エコーでは心臓の中で血液が逆流しているのがわかることが多々あるからなのです。

また、悲しいことに、店頭販売による子犬の量産を目指しているのか、2009年の記録より登録数は確実に上昇。2010年の記録では100頭を越す勢いを感じます。そこで2008年の記録からみると、この心疾患ラインの占める割合は90%となってきています。

心臓病は腎臓病と同じく、発症したら治すことは難しく、通常は進行を遅らせる処置を取るしか方法がありません。
しかし、なるべく症状の少ないうちに獣医師の診察を受け、適切な処置を取れば、それだけ健康な状態を保ち、長生きさせることができます。予防的な治療を行うことが肝心なのです。

更にここ数年、今まではありえなかった人間と同レベルの心臓外科手術も頻繁に行われるようになり、深刻な疾患でもかなりの延命が可能となってきました。
早期発見が鍵となってきているのです。

こんな見極め方もあります。

○運動後等、ハアハアと息苦しそうではないか。
○興奮後(特に喜びの興奮)歯茎や舌の色が悪くなっていないか。
(通常はピンクや赤みががった色合いなのに、紫がかった暗い色に変わっているようだとそれはチアノーゼ。)
○倒れたり失神したりはしないか。(てんかんと同じような発作だが、回復が1〜2分と早い。)
○散歩の途中で座り込み、休んでしまわないか。運動を嫌がったり、体を動かすとすぐに疲れないか。

○咳をしてはいないか。

核心に触れるようで怖いかもしれませんが、心疾患は心エコー・胸部レントゲン・心電図等の検査で確定診断ができます。
病院の機材や専門性によって、詳細がわからないままということもままありますので、循環器系を得意とする獣医師を探すことも大切です。

腎臓も心臓もそのものを治療し、機能を回復させることはできません。
残った機能を有効に活用させ、いずれの臓器にもこれ以上の負担をかけさせないよう、早めの治療を心がけたいものです。
最低でも一年に一回の健康診断で尿検査・血液検査・心臓検査をすることをおすすめします。
何事も早期に発見し、対処することで愛犬の命は飛躍的に伸びるのですから。



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